JASO規格(日本独自の規格)
従来、自動車のエンジンオイルの品質規格といえば、アメリカ石油協会の設定した、API規格が主流であったのですが、近年の環境負荷低減を目的とした、エンジンオイルの品質基準の新たな設定に伴い、日本独自の品質基準を必要とするようになってきました。
JASO規格
JASO(Japanese Automobile Standards Organization)は、日本の自動車技術会(JASE)が制定する自動車規格です。
日本には、国が定める日本工業規格(JIS)があますが、そのうち自動車の規格については、日本工業標準調査会(JISC)から、自動車技術会(「自技会」と略)が原案審議団体として指定されています。JISの他に、自技会が業界の団体規格として作成しているJASO規格があるわけです。
JASO規格は、自動車全般に及ぶ広い範囲をカバーしていて、エンジンオイルの規格だけではないのですが、自技会が制定した自動車用のエンジンオイルについては、次のような規格があります。
●2サイクルガソリン機関潤滑油規格(JASO M 345)
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●二輪自動車−4サイクルガソリンエンジン油規格(JASO T 903)
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●自動車用ディーゼル機関潤滑油規格(JASO M 355)
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2サイクルガソリン機関潤滑油規格(JASO M 345)
かつては明確な品質規格がなく、粗悪なオイルを入れたためにカーボンで排気ポートが詰まってしまうことがありました。 そこでやはりJASOが1994年に規格を作り、FA/FB/FCの3グレードが生まれました。
FA→2サイクルエンジンにとって最低限の性能を有する |
FB→FAに比べて特に潤滑性、清浄性に優れる |
FC→FBに比べてさらに排気煙、排気系閉塞性に優れる(スモークレスタイプ) |
※現在市販されている、二輪車要の2サイクルエンジンオイルは、純正を含めて、ほとんどがFCグレードです。
二輪自動車−4サイクルガソリンエンジン油規格(JASO T 903)
2輪用オイルはミッションの保護性能と、クラッチとの相性も問われるので、4輪用を前提にしたAPIグレードだけでは語ることはできません。
現在、4サイクルガソリンエンジンオイルの規格にはAPI規格、ISLA規格及びACEA規格がありましたが、これらの規格は全て4輪自動車用4サイクルガソリンエンジンへの使用を前提としており、2輪車のようにエンジン、クラッチ、ミッションなど潤滑油を共有している場合、動力伝達機構等にトラブルが発生する恐れがありました。
特に、近年は、4輪車エンジンオイルは、省燃費エンジンに対応させるために、低粘度オイルが一般的です。しかしそれらのオイルを2輪車に使用してしまうと、低摩擦性によるクラッチの滑りの発生、低粘度性による、ミッションの耐久性不足が懸念され、4輪車用のエンジンオイルを使用したためと思われるトラブルの事例が数多く出てきました。
そこで、1998年に日本で新たにバイクへの適合性を考えた、JASO(自動車技術協会)規格が設定され、MA、MBの2グレードが生まれました。
4サイクルオイルの標準的な試験に加え、クラッチのすべりの原因となる摩擦性能試験やギアの摩擦、極圧、せん断によるオイル劣化を防ぐ為のせん断安定性試験など2輪車用に求められる試験(JASO
T 903規格)の結果に基づき、生産者が品質を保証しています。
MA
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「せん断安定性」に特に優れた適性をもつ2輪車適合4サイクルオイル規格
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MB
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「低摩擦性特性」に特に優れた適正をもつ2輪車適合4サイクルオイル規格
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この2つのグレードに優劣はなく、MAはせん断安定性に優れるオイル、MBはバイク版の省燃費オイルという位置づけになっていますが、どちらかというと、ミッションに力の掛かる大排気量車にはMAが、フリクションロスを嫌う中小排気量車にはMBが合っているようです。
どちらかが高品質で、もう一方がそれに劣るというわけではありません。
自動車用ディーゼル機関潤滑油規格(JASO M 355)
従来、日本のディーゼルエンジンオイルの性能表示は米国のAPIが決めた規格表示を用いてきました。しかし近年、日本と米国の排気ガス規制の違いより、エンジン内の燃焼条件が違ってきており、APIIの規格では日本のエンジンに合わなくなってきました。APIの新規格油(CG-4)を使用し、日本のエンジンをテストしたところ、摩耗の発生等の不具合が生じました。そのため、日本のディーゼルエンジンの要求特性を満たすオイルの規格が要望され、2001年4月より日本初のディーゼルエンジン油規格であるJASO
DH-1規格の運用が開始されました。 |
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日本と欧米のディーゼルエンジン規制の違い
地域
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法規制内容
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燃焼温度
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他要因
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米国・欧州
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PM排出量重視
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比較的高温で燃焼
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触媒装置使用
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日本
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NOx排出量重視
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比較的低温で燃焼
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EGR装置使用
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日本の法規制は基本的にNOx(窒素酸化物)排出量削減を重視していますが、これに対し欧米ではPM(粒子状物質)排出量削減をより重視しています。このPM量とNOx量は、燃焼温度により逆相関の関係にあり、NOx削減を重視している日本のエンジンではすすの混入が多くなります。従ってオイルのすす分散能力、清浄能力が大切なファクターとなります。
ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質(PM:Particulate Matter)は大気汚染物質として、近年その排出量が厳しく規制されています。
2003年10月以降実施される新車への規制(新短期・新長期規制)及び使用過程車への自動車NOx・PM法による規制や、8都県市における排出ガス規制をクリアするために、規制地域内を運行するディーゼル車(現在のところ貨物車のみ規制)には、DPF(Diesel
Particulate Filter)や酸化触媒等の後処理装置が必要となります。
一方、DPF装着車に従来発売されているディーゼルエンジン油を使用すると、灰分が多いために、短い期間でDPFを詰まらせる可能性が高くなります。このような背景から自動車工業会・石油連盟から、DPF装着車向けディーゼルエンジン油規格のガイドライン「DH-2」「DL-1」が発表されています(※トラック、バス向けはDH-2)。
2005年、(社)日本自動車工業会と石油連盟は、ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)を装着した新短期以降の規制に適合した新型ディーゼル車を対象に、エンジンオイルの品質に関するガイドラインとしてトラック、バス用「DH-2」、乗用車クラス用「DL-1」を設定しました。
DH−1
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トラックなどの貨物車で、排ガス浄化装置(DPF)装着車に対応する
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DH−2
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トラックなどの貨物車で、排ガス浄化装置(DPF)装着車に対応する
DH−1よりも厳しい基準
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DL−1 |
ディーゼル乗用車で触媒付のエンジンに対応する |
現在のところ、首都圏の8都県市における排出ガス規制については、1・4ナンバーの貨物車と、2ナンバーのバスが対象となっており、3・5ナンバーの乗用ディーゼル車には、DPFの装着は義務化されていないため、設計の古い乗用ディーゼル車には、従来からのディーゼルオイルで必要十分なのですが、今後、新しい設計のディーゼル乗用車には、新しいオイル規格が必要になるのかもしれません。
●自動車技術会
自動車技術会(JASE)は、自動車に係わる研究者、技術者および学生などの多彩な会員層から構成されています。個人会員約35,000名、賛助会員(法人)は、約500社にのぼります。自動車技術会は、日本工業規格(JIS)原案の作成や団体規格であるJASOの制定によって、自動車産業全体及び消費者に標準情報を提供し、自動車に係わる技術進歩、安全性の確保及び生産の効率化などに寄与しています。
●JASOエンジン油規格普及促進協議会
「JASOエンジン油規格普及促進協議会」は1994年に、石油連盟、(社)日本自動車工業会、(社)自動車技術会、(社)日本陸用内燃機関協会、(社)潤滑油協会、(社)日本舟艇工業会の6団体と、添加剤会社により設立されました。
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